奈良ひとまち大学は弱冠40歳市長のマニュフェスト事業として開始されたとのこと。実際は公益財団法人奈良市生涯学習財団の職員が実務にあたっている。この財団は奈良市内にある公民館を運営している組織であり、ひとまち大学は公民館職員により運営されている。外郭団体とはいえ、市から人件費や維持費などの活動費が出ているので予算は豊富にある一方、市長マニュフェストであるため「必ずやらなければいけない」「成功させなければならない」といった行政に携わる人達の政治的ミッションもある模様。このような背景だが、実務を担当される職員の方は非常に真面目で明るく、自分事としてひとまち大学を成功させたいと誰もが同じベクトルで続けていることを感じられた。今後、市長が変わるような事があると自主独立も考慮に入れなければならず、長い目で見た将来の運営にはスタッフの皆さんが続けられるのか心配している。
現在5年間で200回近い授業を行っている。先生役はこすぎの大学同様地元の面白い活動をしている人や、たまに著名人を呼んだりして活動しているとのこと。
奈良という街は駅を降りて散策すると、ほとんどの寺社仏閣が国宝級という観光資源に恵まれた土地ではあるが、根っからの地元の人達は子供の頃から「当たり前にあるもの」であるため、他地方の人ほどありがたみを感じていないように思えた。市長はこういった現状をひとまち大学を開催することによって奈良の観光資源の面白さや楽しさをまずは地元の人達に感じてもらいたいとのこと。もう一つ奈良の人と話していて気づいたのが、話の「時間軸」の長さが異様に長いこと。1,300年の歴史がある街に生まれ育っているからでしょうか。これは明治学院大学の坂口先生も同じことを話しておりました。
奈良が地域として抱えている課題は下記の通り。
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京都と同じくらいの歴史ある街なのに観光地としては少し見劣りしている
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仕事がないため大学を卒業すると奈良を出て行ってしまう人が多い
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洋服や嗜好品の買い物はほぼ京都か大阪
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京都・大阪へ電車で1時間以内ということもあり日帰り客が多い
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関西人からすると「おもろない街」と思われているネガティブイメージ
仏像マニアや寺社仏閣マニアの方たちのiターン移住者がちらほらいた事には驚いた。
1日目
交流授業No.1「びっくり楽しい春日大社のお話 〜年間2,200回を超えるお祭りって?〜」
講師:春日大社 岡さん
春日大社は西暦767年に建立された歴史ある神社で奈良公園・東大寺の横にあり広大な敷地の中にある。4つの神様を祀っている。昔は神社と寺の関係が今ほどしっかり分かれているわけではなく、隣にある興福寺のお坊さんが年に1度春日大社の神様でお経を唱えるイベントもあるとのこと。もともとは興福寺の敷地も春日大社のものであったとのこと。実は神社と寺を明確にわけられたのは明治維新後であるらしい。大社の奥にある御蓋山(みかさやま)への信仰が深く、市街地に近いにも関わらず山全体を原生林の状態を保っている。
神社を一通り周り、信仰の由来や天皇家との関わりなどを細かく教えて頂いた。
交流授業No.2「ぼくらのともだち、奈良の鹿 〜奈良の鹿愛護会の仕事〜」
講師: 奈良の鹿愛護会 鈴木さん
奈良公園にいる1000頭あまりの鹿は、実は「野生の鹿」である。愛護会は主に病気や怪我をした鹿のケア、頭数の管理、角の切除、鹿苑の管理などを行う団体。奈良の鹿は奈良公園の中だけにいると思いがちだが、実は野生であるため住宅地などどこにでも出没する。
鹿せんべいと草しか食べたことない鹿が、地元の畑を荒らして野菜などを食べてしまうと、それに味をしめ他の鹿を連れてきてそこに定住してしまう。一度でも外の味を覚えてしまった鹿は、鹿苑に連れてこられて2度と野生状態で公園に戻されることはないそうである。一見、残酷なようだが、鹿は頭が良いため、一度心地よい場所を見つけると何度隔離しても再度同じ場所に戻ってしまうとのこと。
ある意味、観光客としては知ることがないであろう、鹿管理のダークサイドを見せてくれるあたりがちょっと面白かった。
鹿苑は春日大社の敷地内にあるが、鹿の管理のためということで無償で土地を使わせてもらっているとのこと。
2日目
奈良ひとまち大学 5周年イベント
奈良市公民館の2階から5階までを使いイベントが行われる。2階から4階まではひとまち大学が協力を要請した地元カフェ、地元商店、NPO、個人活動家が各ブースで自分の商品を販売したり広報活動をしていた。
午前・午後を通じて開かれたパネルディスカッションとワークショップに参加。
午前の部 パネルディスカッション
NPO法人ミラツク西村さん、NPO法人文化創造アルカ倉橋さん、健一自然農園伊川さん、奈良市長(ひとまち大学学長)仲川さん
倉橋さんと伊川さんは地元奈良で活躍している方でひとまち大学で講師を務め高い人気があった方たちである。
気になったキーワード
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住民が自分たちの町をまず知ることが大事
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地域資源の魅力がうまく伝わっていないように思える
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これから行政ができることはどんどん限られていくので、町の魅力発掘などは民間が主導で行政がお手伝いくらいでやっていけたら良いのでは。
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ターゲットを明確にした授業は今後は必要になってくる
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- 地域の人
- 外国人観光客
- 日本の寺社仏閣が大好きな人達
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奈良は1300年分の視座を持つことができることが良い所
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町の人達とのふれあいは本当に大事
午後の部 パネルディスカッション続き
奈良市長仲川さんとコーディネータのNPO法人ミラツク西村さんによる対談。
気になったキーワード
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幅広いセクターのキーパーソンに光を当てて顕在化するのが重要
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インナーサークルになりがちなので、インナーの動きをもう少しパブリックにしていきたい(外に出して自由に開放したい)
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誰にでも開かれているという公益性より、絞り込んだ方がいいと思う。
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主体が民間になり、客体が行政になったほうが良いと思う。
午前中、終了間際に「こんなことをやってみたい」というのがある方?というアンケートをとり、そのアンケートをもとにテーブルわけがされ、各議題についてテーブルについた参加者が意見を述べるというワークショップを開催。
議題
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奈良のマイナーなものをおもしろおかしく取り上げるフリーペーパー
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大学生のチャレンジを、地域で応援するには?
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東アジア文化都市2016奈良市について
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外国人観光客について
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きたまちエリアの導線を良くする
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海外観光客に日本料理を体験させる料理教室
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残したい奈良、新しい奈良、奈良のこれからを考える
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なら橘プロジェクトについて
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学生と中小企業の出会いを作る
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女性中心の農業について
閉会の言葉で終了。